僕の通った学校は、寸分変わりない姿

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裕紀が母校でもある音楽大学にやってきたのは、恩師に仕事の依頼を受けたからだ。 数年ぶりにやってきた練習棟は相変わらず大勢の練習熱心な生徒で溢れていた。 何人かの女子生徒は裕紀の姿を認めると驚いたように瞳を瞬かせ、皆一様に頬を染める。裕紀の容姿は他に比べて秀でていることを本人も知っているから、そんな女子生徒の反応にも裕紀はとくに興味を示さず、ただ前を見て歩く。 仕事道具の入った大きな鞄を右手に下げ、裕紀は使用禁止と書かれたある一室の前で立ち止まると事務室で借りてきた鍵を使い中に入った。 使われていない練習室は強く埃の匂いがした。陽射しが差し込み、換気のされていない室内はむっとする程暑い。荷物を置き、窓を開けると爽やかな風が吹き込んで熱気を逃がしてゆく。裕紀は袖を捲り上げて、ピアノの蓋を開けた。
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