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とにかく、戦闘になれば逃走することが目的となるボクにとって、それはありがたい能力だった。
「どうやらその能力…ワシにとって相性が悪いようだな」
懐にナイフをしまいながら、丑三は忌々しげに吐き捨てる。
彼は落ちていた杖を拾うと、そのままコートの出口へ歩いていった。
「ボクを殺さないの?」
戦いが終わったことに内心で安堵しつつ、老人の背中に声をかける。
丑三は振り返らずに応えた。
「ほっ…厄介な能力を使いおってよく言うわい。それだけの力があるならば、野垂れ死のうがどうなろうが構わぬわ」
軽いため息をつくと、彼はそのままどこかへ行ってしまった。
夜のテニスコートに、再び静寂が訪れる。
でこぼこしたベンチを見つけ、そこに寝転がる。
額にかかった白い髪をかきわけると、今まで抑えていた緊張感が一度に押し寄せてきた。
丑三は、彼なりにボクを心配してくれたのだろうか。
わからないが、少なくともこれでこの夏をマイと過ごすことができる。
…マイにはこの命の事は、このまま言わない方がいいだろう。
妙な気を使わせて、気まずい雰囲気にはなりたくなかった。
たくさんの星が瞬く夜空を見ながら、ゆっくり目を閉じる。
マイの笑顔を思い浮かべながら、ボクは心地よい眠りに落ちていった。
8月2日
完
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