8月16日

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葉。 妻と違い、父親の借金について自分の責任のように考え、修学旅行を諦めたり、学費のかからない特待生の受けられる高校を受験しようと努力したりなど、自分の青春時代を犠牲にしてまで、返済の事について親身になって考えてくれる。 舞。 疲労やストレスから彼女のことがうざったくなってしまい、冷たい態度をとるようになってしまった父親に、それでも健気にいってらっしゃいやお帰りなさいを言ってくれる小さな娘。 私は彼女たちに、どれだけ支えられてきたのだろうか。 そんな娘たちを売ることなどできようか。 洋介は床に頭をつけ、土下座する。 「無理を承知でお願いします。どうか、どうか娘たちだけは見逃してもらえないでしょうか…」 強い決意を固めたはずなのに、喉から出たのは震えるような声だった。 床にひれ伏す洋介の態度に、顔を見合わせる二人。 初老の男性の頷きに、秘書は答える。 「わかりました。では貴方の妻である真理子様のみ、ということで了承致しましょう。後日、店の客共々、直接倉岡様のご自宅へ参ります。書類にサインを…」 洋介は震える手で、妻を売ることを契約した。 このとき初老の男性と秘書が、悪魔のような微笑みを浮かべていたことに、瞳を涙に濡らした洋介は、気づくことができなかった………。
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