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「その数日後、軍の研究施設が壊滅したと、行商人から聞いたんじゃ」
いつの間にか日は傾き、老人の顔を照らす
「さあ、もうお帰り」
老人はそう言って、少年を、膝から降りるよう促した
少年はそのまま、ドアの所まで行き、開ける
そして、一度だけふり帰り
「バイバイ、テッドおじいちゃん」
夜になり、月が静かに大地を照らす
その中を一人、老人は歩く
辿るのは、昔彼女と通った道
やがて、少し拓けた場所で、老人は立ち止まる
かつて、彼女と別れた場所
「アイリス…」
自然とその名が、口からこぼれる
ふいに、背後に気配を感じ、老人は振り向く
そして我が目を疑った
そこには…
「アイリス!!」
かつて別れ、そして二度と戻ってこないと思っていた少女
必死で駆け寄り、抱き締める
「良かった…もう…二度と会ないんじゃないかと…」
言葉が詰まって、巧く喋れない
いつの間にか、彼は少年の頃の姿に戻っていた
ふいに、アイリスが言う
「行こう」
微笑んで差し出されたその手を、テッドはしっかりと握る
そして二人は、笑い合いながら歩いていった
翌朝、ログハウスから少し離れた野原で、老人の遺体が見つかった
そして、その傍らには、誰が置いたのか、一輪のアイリスの花が手向けられていた
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