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河田の場合
「暑いなぁ」
病室のベット、妻の横になっている姿の横の窓からは壊れた玩具のように蝉がしきりにないている
「夏の風情とはいえ」
苦笑いとも微笑ともつかぬ笑いを河田は浮かべた
「今日は少し早いですね」
「あぁ、野間が変わりに出勤してくれたんだ、ほら入院する前よくうちに来ていた、メガネの体格のいいやつだよ」
「ご迷惑をおかけして」
「まぁ、すぐによくなるからそこまで心配はいらないとはいったんだけどな」
笑い飛ばす様な言葉で妻に言った
河田は少し嘘をついていた、
今日病院に早く来たのは妻の担当医師からの連絡を請けてのことだ、
しかし彼はこの言葉を決して慰めのつもりで言ったわけではなかった、
昨日医師から電話があった、
大事な話があると、電話で話をする事は駄目だといい
明日午前中に病院に来て欲しい、
と言うメッセージが電話に残っていた、
この時妻の容態が悪化したのであろうと言うことはすぐに頭をよぎった、
しかし人間とは不思議なもので自分の場合は大丈夫だ、きっと手術の話か何かだろう、
とか安心させるような想像を頭に巡らせていた、
大丈夫きっと大丈夫だ、
彼は自分のためにも妻にすぐに良くなると言わざるを得なかった
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