1.【約束】

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タンスの中に、あの人からの最後の手紙。 意外と手前にしまってあるのは、私が弱い証拠だ。 小さなことに悩んだり、悲しくなった時には、決まってその手紙を読み返す。 今夜も、仕事を終えて疲れ果てた心身を慰める為に、私は手紙を開いた。 薄暗い部屋の中でも、網膜に焼き付いているかのように、鮮明に瞳に写し出されるその字体。 …数年前に別れたあの人との、待ち合わせの約束。 別々の方向へ歩いて行くことを選んだ私達の道が、唯一交差する場所。 私がこんなに大切にしている約束も、あなたは覚えていないかもしれないけれど。 心待ちにしているはずなのに、約束に近付く度不安になる。 いや、心待ちにしているからこそ、不安になるのかもしれない。 私の中のあの人は、すっかり色褪せてしまった。 大好きだった笑顔も、私を呼ぶ声も、今はもうぼんやりとしか浮かんでこない。 夢の中に出てくるあの人も、所詮は私が作り出した偽者。 …もしもこの約束が果たされなかったら、どうなるのかな。 …次の日からの私は、どうやって生きていくのかな。 最近はそんなことを考えてしまう。 約束が持つ癒しの効果は、まるで消耗品のように、少しずつ薄れていく。 その代わりに、影のようなものを心に落とす。 それでも、わずかな可能性を信じて。 指先で不器用な文字をそっとなぞる。 そして再び、タンスの手前の方へ手紙をしまい込んだ。 そんな風にしてまた一日は終わり、カレンダーがカウントダウンする。 …約束はもう、来年に迫っていた。    
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