4.【口封じ】

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今日は三日月。 物陰に隠れた僕達をそっと照らし出すかのように覗いている。 「私がココに来た事…誰にも言わないで」 口元に細い人差し指をそっと立てると、君は呟いた。 何故いつも、二人で会えるこの時間を、誰にも告げるなと念を押すの? …僕よりも、大切な誰かがいるの? 「変な誤解はしないで。私はあなたが大好き。だから…誰にも秘密なの」 そう言って君は立ち去って行った。 君が全てである僕の世界は、毎日そんな風に終わる。 ふと目を覚ます、 今日は満月。 僕はやはり、いつもの君の言葉が気になっていた。 もうこんな風に君を疑うのが嫌だった。 だから、僕は君の後を追ったんだ。 暗い道を辿っていくと、そこには君の姿が見える。 人影がもうひとつ。 …その男は、誰? 君は僕の姿に気がついて、こちらに目を向けた。 その顔に驚きの色が浮かぶ。 僕が近付くと、君は焦り出した。 何だよ、そいつなの? 秘密にしたい相手って、その男なの? 君の視線に気付いてか、その男は僕の方を見た。 かと思うと、また君の方に向き直る。 やめろよ。 その子に近付くな!! 苛立ちを抑え切れずに、僕は男に向かって叫んだ。 が、そいつは気付かない。 いや、気付かないフリをしているんだろう。 この野郎っ! 一発、殴ってやる! 僕は勢いよく、そいつの肩を掴んだ。 …つもりだった。 しかし妙なことに、僕の手はそいつの体をすり抜けた。 …え? 訳がわからない。 ともかく、君を僕の方に引こうと君の腕を掴もうとした。 …が、再び僕の手は君の体をすり抜けた。 男は、まだ僕に気が付かずにしゃべり続けている。 「…だから、言ったのに…」 君は悲しげに呟いた。 僕は、気付かなかったんだ。 本当に封じられた秘密は… 君と僕の関係じゃなく、 僕の存在、そのものだったということに。 そうだった。 あの日から、僕の世界は君だけになったんだ。 全てを思い出した瞬間、僕の体は、僕自身の視界から少しずつ消え始めた。 指先から、少しずつ… 本当はもう君と、お別れしなくちゃいけないはずだったのに。 こんなに長い間、先延ばしにしちゃったね。 僕の全てが消えようとした時、君が何か叫ぶ声が、聞こえた気がした。 最期に見えたのは、月明りに君の涙。    
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