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「失敗したなあ」
大沢一郎は、電車内の中吊り広告を眺めながらひとりごちた。大きな溜め息をひとつつく。
いつからだろう。この言葉が口癖になったのは。ここ何年かのような気もするしごく最近のような気もする。ただはっきりしてるのはなにかにつけ、この言葉を口にしているということだ。
「失敗したなあ」
もう一度自分に問いかけるように声に出し、大沢はシートから立ち上がりドアのほうに向かった。
電車のドアがガタリと音をたて開き、ホームに一歩足を踏み出す。真夏の熱気が一瞬にして大沢の体を包み込んだ。途端に着ているシャツが背中に張り付き汗が額に浮き出てくる。改札口に着く頃には体中が汗だくになっていることだろう。
「失敗したなあ」
また口に出しそうになって、慌ててその言葉を飲み込んだ。
「ふう」
今度は軽い溜め息をひとつ。
「失敗したなあ」
大沢は自分では気づかずにまたひとりごちるのだった。
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