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「あの……ちょっといいかな」
「美香だよ」
「えっ、なん……ですか?」
「美香。私の名前、秋元美香って言うの」
「ああ、美香……さん。ちょっと聞きたいんですが」
「ていうか、ちょっといいかなあ」
「はい、なんでしょう」
ふいに美香が大きな声を出して質問を返してきたので、大沢はいつも取引先で見せる媚るような笑みを返してしまう。
とたんに美香が怪訝な顔を見せて目を反らし下を向いた。
大沢は良くは分からないが、この場に削ぐわない事を自分がしてしまったと感じて笑顔を引きつらせて美香の次の反応を窺った。
「あのさあ、あんたさあ。この間、あの国立のスーパーにいた人だよねえ」
ちょうど一週間前のことだった。大沢は一週間経った今も鮮烈に思い出す。アメリカンコミック風のイラストが描かれたスナック菓子とそれを盗んだ美しい少女を。
その少女は今なぜなのか、新宿駅のホームで自分の隣のベンチに座っている。
「いました……ね」
大沢はどう答えて良いのか分からず口ごもった。
「あんたさあ、営業の人なんだって?私が盗ったお菓子、あんたのとこの会社のなんだって?嫌な思いさせちゃったでしょ。ごめんね」
「なんで、そんなことを?」
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