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そうじゃない。
オレが聞きたいのはそんなことではない。オレは何故お前がここにいるのか知りたいのだ。何故オレは言いたい事を言えないのか。聞きたい事を聞けないのか
大沢はそんな自分自身を歯がゆく感じながら、美香の次の言葉を待った。
「この間いた、あのおじさんに聞いたんだ」
高橋のことか。本当にどうでもいい情報を提供する男だ
大沢は高橋の顔を思い浮かべながら歯ぎしりをした。
「あんたさあ、あそこに営業しに行ったの?」
「そう……です。コーヒーの」
あれから一週間が経つが松本からの連絡はない。今回は空振りだと思う。
大沢は混乱している頭の中でコロンビア産のコーヒー豆のカタログと松本の顔を交互に思い描いていた。
「あの時は本当にびっくりしたんだ。知ってる人があそこに来たから」
どういうことだ?
大沢は美香の事は知らない。名前も今日初めて知った。あのスーパーの事務所の中では名前までは確認出来なかった。
なのに、美香は自分を知っている。大沢は体中から血の気が引くような感覚を覚え、美香の横顔を凝視した。
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