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不意に美香が大沢に向き直った。
目が合う。
何もかも見透かすような鋭くとがった視線を大沢に向けている。
瞳の奥には何かぎらついた光りが感じ取れる。それは磨き抜かれた金属片を連想させた。
その瞳の奥にあるつるりとした金属の表面に大沢の顔が写っている。大沢の何もかもが写っている。
知っている。お前の全てを知っている
大沢は襟首を絞め上げられたように息苦しくなった。
危険だ。この女は危険だ。ここから逃げなければ
「オレ、もう会社行かなきゃ」
大沢は立ち上がり慌てて駆け出した。美香はきょとんとした顔をしている。
階段を駆け降り、連絡通路へ。腕時計を見る。七時四十分。今からではぎりぎり間に合うかどうか。大沢は震える手で携帯電話を取り出した。
「もしもし大沢です。おはようございます。部長来てますか?」
息を切らせながら電話に出た経理の女子社員に次げる
「もしもし大沢か。どおしたあ」
やや間が開いて営業部長の林が電話に出る。
朝から聞きたくない声。気分が悪い時なら尚更だ。大沢は受話器から口を離して舌打ちをした。
「おはようございます。大沢です。今日ちょっと体調不良で休みたいんですが」
「そうかあ。でもお前アレたな。そこざわついてるな。外にいるのか?」
変な所で勘が鋭い奴だ。大沢はうんざりして、もう一度受話器から口を離して舌打ちをした。
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