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午前七時十五分。大沢は東中野駅のホームに立っていた。
電車が到着した時にちょうどドアが開く位置。いつもの立ち位置とは幾分離れた場所に立っている。
昨日まで自分が立っていた場所を横目で見る。髪の毛に寝癖をつけた中年の男。その後ろには男子高校生がしきりに携帯電話をいじっている。
本来ならその後ろに自分が並んでいるはずだった。大沢は深い溜め息をついて昨日の美香の言葉を反芻した。
いつも後ろから二列目の車両でしょ。私も後ろから二列目なの
大沢は美香と会うのを恐れていた。美香自身を恐れているというよりも、仕事以外での人間関係を恐れていると言って良い。
人とのコミュニケーションの取り方をまったくと言っていいほど知らない大沢にとって、美香は恐れを抱く対象でしかなかった。
各駅停車の中央線が定刻通りに東中野駅にやって来た。
大沢の目の前でドアが開き、すでに車内に居る者達の視線が一斉に大沢に向けられる。しかしそのどれもが大沢に対して興味を示しているわけではない。
大沢は大勢の中の一人になった事を確認する。そして堂々と車内に足を踏み入れた。
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