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お前の事を知っている。お前が臆病だと知っている
美香の眼がそう語っている。大沢はきつく目を閉じた。
「違う」
大沢は呟き、新宿までずっと目を閉じたまま違うと呟き続けた。
電車が新宿駅に着くと、また人波をかき分け強引にドアに向かう。また周りの人々が嫌な顔をするがまったく気にしなかった。一刻も早く中央線から脱出したかった。
電車を降り足早にホームを歩く。
「ちょっと待てよ」
すぐ後ろで声がする。大沢は背中を刃物で切り裂かれた様な感覚を覚えた。
脳天から踵までを流血したように熱い汗が溢れだし、身体中の汗と共に体温が外へと抜け出していく。
「おい」
そのまま無視して歩きだそうとしたがまた呼び止められる。
もう誤魔化せなかった。現実はすぐそこまでやってきている。大沢はゆっくりと後ろを振り返る。
「お前、なに避けてんだよ」
大沢が振り向ききらないうちに、声の主である秋元美香が声を荒げる。
美香は電車の乗車口の前で腕を組んで立っている。
人波を完全に遮っている一人の女子高生にホームを行く人々は皆怪訝な顔をする。しかし美香はまったく意に介していない様だった。
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