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「どうなんだよ?」
美香は眉間に深い皺を作り大沢を睨み付けた。
人を射ぬく様な視線は昨日となんら変わる事はなく、大沢はその鋭い切っ先で、身体を刺し抜かれた様な気がした。
「そんな……避けてるなんて……今日はたまたま……です」
「そお、なら良いけど。ていうかあんたさあ、私に自己紹介もしてねえんじゃねえの?」
「ああ、大沢です。大沢一郎」
発車のアナウンスが流れ、電車のドアが不規則な動きで閉まろうとする。
美香はとっさに手を出し、閉まろうとするドアを片手で受け止める。ドアは一瞬その場で動きを止め、ガスの抜ける様な音と共に元に戻った。
「そう、じゃあ大沢。また明日ね」
さっきとはうって変わって柔らかな口調で大沢にそう告げると、美香は軽やかな身のこなしで電車の中に消えた。
同時に中央線のドアが不規則な動きでまた閉まる。
大沢はゴクリと生唾を飲み込んだ。
一体何が目的なのか?何故オレの名前を知りたいのか?
また疑問が頭の中に浮かび上がる。
ホームを往く人々は、先程の美香とのやりとりを見て大沢に興味深げな視線を送る。
一体この男はあの女子高生とどういう関係なのか?
人々の視線がうるさかった。
「うるさい」
大沢は呟く。
朝だというのに夏の太陽は既に空高く上っている。日射しがジリジリと大沢の頭を焼く。
大沢は考えるのをやめた。
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