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「おーい。お前アレ大丈夫か?体の具合は?」
大沢が社内に足を踏み入れるのとほぼ同時に林が声をかけてくる。
林の声はいつも強引に大沢の頭の中に響き渡る。そこには遠慮や慎ましさという類のものはかけらもないのだった。
がさつに、好き勝手に大沢の頭に響き渡る。林の声を聞く度に自分自身を失っていく。そんな気がした。
大沢は頭の中に何か冷たい物を捻じ込まれた様な感覚がして思わずその場に立ちすくんでしまう。こめかみを指で押さえ、きつく目を閉じた。
「まだアレか?調子悪いのか?」
「いや、もう大丈夫です。平気です」
大沢はなんとか声を絞りだし、自分のデスクへ向かう。
何も考えられずただ時間が過ぎていく。
何もしていない訳では無い。行動はしているが、自分の考えや想いがそこに無いだけで漫然と時を過ごす。今日の大沢はそれに当たる。いや今日だけでは無い。今までの人生を、ほとんどそう生きて来たのかも知れない。
気が付けば高校入学。そして気が付けば大学受験、高校卒業。気が付けば大学を卒業し今現在である。
あまりに空っぽな人生を振り返る事もしない。したくない。
今日も気が付けば昼休み。そして退勤のタイムカードをガチャリと押していた。
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