5676人が本棚に入れています
本棚に追加
/201ページ
ガラスに体重を掛けるようにして待伏せていたのは、南も良く知る顔だった。
立ち止まり深く礼をすると、男は、預けていた体重を地に戻すとこちらをむいた。
「よくないことを考えているようだな。南」
どこまでも人を従わせてしまうような声は、あのずぼらで自己満な女帝にはないものだ。だが、怯むことも南のプライドが許さなかった。
「いいえ、副社長からすこしお小言をいただいただけです。私が、書類をミスしましたので」
あながち間違ってはいない。だが事実でもない。
「まぁ、いいがな。では、叔母に伝えてくれ、あんたが企むことはこちらは掌握済みだと」
「承りました」
踵を返す男を深い礼で見送る。
そこには、薄暗くなった廊下だけ残った。
最初のコメントを投稿しよう!