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我ながら女らしくない叫びだったと思う。だが仕方ない。男と付き合ったことがなければ、こんなことをされたこともないのだ。縁がなかったといってもいい。
「ムードのない奴だな。もっとしおらしくしろよ。」
首をなぞっていた一真の形のいい唇は、上へ移動し、真正面に顔がくると、唇は唇へと重なった。
正確には触れただけだが、驚愕はひとしおだった。
「からかい甲斐がないな。」
「冗談で、う、うんなことするな!」
軽く触れただけの口づけはすぐに離れ、一真は笑った。
「吸うわけないだろう。まだ死にたかねぇよ。」
体を離した一真は何事もなかったかのようにソファーに座りなおした。
「なんだ?物足りないか?」
放心している茜に、問いかける。
「やっぱり、お前のそばは危険だ。」
「一ヶ月我慢しろよ。その間に俺に惚れたら、俺の責任じゃない。」
何処から来る自信なのか問いただしたい。だが、なまじ、冗談になりそうにないというのが、確信めいて、茜の中に出来てきたのは、目の前にいる自信家のせいだった。
「誰が惚れるか!」
確信はどうにせよ。惚れるわけにはいかない。茜はその資格はないのだから。
「わからんぞ?人生、何があるか分からん時代だからな。」
「お前だけは絶対ない!」
叫びという仮面を被って全身で否定した。
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