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 目の前には、高校の制服を着た毬子が、冷たい表情をして僕にのしかかり、右手に鋭い果物ナイフを持ち、左手で僕の首を締め付けていた。とても女子高生の力ではなく、のしかかる身体の重さに僕はいきもできずに苦しさを味わい、首を万力で締め付けられているように首の骨のきしみを感じていた。それだけでも十分死の恐怖にさらされているのに、右手の果物ナイフが、月明かりに鈍く銀色に光り、僕の目に向けて一直線に下ろされようとしていた。  僕は息も絶え絶えに、毬子に許しを請い、助けてくれと言った。毬子は全く表情を変えずに、少しずつナイフを僕の目に近づけていく。僕は脳裏に老婆の言葉を思い出していた。そうだ老婆は人形の事を言っていた。僕はかすかな希望を抱きながら、かろうじて動かせる右手でポケットの中の毬藻の顔をした、『まりもっこり』という人形をとりだして、毬子に見せるように右手につかみもちあげた。その瞬間、毬子の表情が一変した。  毬子は、先ほどまでの冷たく感情の無い顔を嘘のように変え、鬼の形相になって、僕に激しい憎悪の視線を向け、激しく罵るように口を動かし続けた。毬子の身体の重さはさらに増し、首を締め付ける力も強くなった。鋭い果物ナイフはもはや目の寸前まで下ろされた。僕は死を目の前に見る気がしていた。目の前は涙でにじみ、この世の別れと確信すると、今までのやり残したことを一瞬の間に思い出した。
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