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そのとき、老婆の言葉が、夕べの人形の話がありありと耳によみがえった。そう、老婆は言っていた。  「その人形じゃ。その人形が毬子を死に追いやったのじゃ。キモカワイイなどと女子高生の間では人気があったそうじゃが。自分の名前と似ていることもあり、それを毬子は男の誕生日にプレゼントとして送ったのじゃ。しかし男はその人形を歓びはしなかったのじゃ。毬子はショックに打ちひしがれ、悩んだそうなのじゃ。結局それがきっかけともなり、男と別れることになったのじゃ。そして、毬子は山奥の見通しの良い切り株のあるところで、首をくくって死んだのじゃ。決して山ではその人形を外に出してはならぬぞ、忘れるではないぞ。・・・」  そうだ、老婆は人形を見せるなといっていたのだ、僕はとんでもない過ちをおかしてしまったのだ。もはや僕の命は風前の灯火と化していた。  そのとき、ふと目の前にあったナイフが目から離れていくことにきづいた。そして、首を締め付けていた左手もゆるみ、僕は助かったのかと思った。毬子は、鬼の形相を崩し笑ったように感じた。そして、なんの前触れもなく、果物ナイフを僕の胸に突き刺した。
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