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 朝起きると、老婆は寝床にはいなかった。僕があくびをしながら起きていくと、もう、朝飯の支度が整っていた。僕は老婆に礼を言い、朝飯を食べた。夕べの話の続きを聞こうとして、老婆に毬子の事を聞いたが、老婆はきょとんとした顔をして、反対に僕にそれは何のことかと聞き返してきた。老婆は全て忘れているようだった。まあ、単なる暇つぶしのおとぎ話かと思い、僕も忘れることにした。  僕は老婆に、一晩の宿と食事の礼を言うと、その家を後にした。夕べは旅の途中に、宿も無く山道に迷い込んだところで、一軒の明かりのついた家を見つけ、一晩の宿を頼んだのだった。老婆は快く受け入れてくれた。僕は感謝と共に、もはや木々に隠れ、かすかに見える古ぼけた家に最後の一瞥を向けると、山道を登っていった。  老婆に教えられた通りに、脇道にそれることもなく、太い方の道をたどって隣村を目指して歩いていった。もうかれこれ2時間近く歩いてきたと思い。ちょうど切り株があったので、そこで老婆からもらったおむすびを食べることにした。  おむすびを食べながら僕は毬子の事を考えた。男に振られ自殺した娘。そういえば老婆は、見晴らしの良い切り株が一つあるところで娘が首を吊ったと言っていた。僕は、はっとして座っていた切り株から立ち上がり飛び退いた。そのひょうしに食べかけのおむすびを落としてしまい、おむすびはべちゃっとつぶれてしまった。何となく背筋に寒気が走り、薄暗い切り株の奥へ視線を移すと、そこに娘がぶら下がっているように見えて、僕はぶるっと身体を震わせた。突然湧き出た恐怖心を追い出そうと頭を振って、毬子の事を考えまいとして、ほとんど口を付けずに落ちてしまったおむすびのこともわすれ、そのまま、切り株を後にして、歩き続けた。
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