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 僕は足元の小石に何度もつまずきながらも、あきらめずに隣村の明かりを求めて歩き続けた。太陽は完全に沈んでしまったのだが、幸いにも満月の夜にあたり、道は何とか歩けるくらいに明るく照らされていた。僕は激しいのどの渇きに気づき、鞄から水筒を取り出そうと足を止めた。そして、道ばたにあった切り株に腰を下ろそうとしたとき、突然脳裏に何かがよぎり腰を下ろすのを途中で止め、ぎょっとして振り向いた。僕はそこへ立ちつくし周りを急いで見回した。僕はありありと昼の光景を思い出した。この切り株は、確か昼に僕が座って、おむすびを食べた切り株に違いなかった。そんなはずは無いと思いながらも、切り株の横に視線を移し、近づいてよく見ると、そこには落としてつぶれたおむすびがあった。そして僕は背筋に凍り付くような激しい悪寒を感じたが動くことができなかった。僕には顔を上げなくてもわかっていた。切り株の向こうに視線を移すことができなかったのだ。なぜなら そこに毬子が立っている からだった。僕は、そのまま顔を上げずに、毬子の方を見ないようにして走り出そうとした。しかし足は僕の意志に反して動くことをためらうように、その場から離れようとしなかった。僕はいやがる足を懸命に持ち上げて、走り出そうとした。全力を出してその場から離れようとしているのだが、足は思うように動いてはくれずに、僕は絶えず違和感を感じながらまるで僕の足じゃないような、何キロもの重りが付いた足枷でもはめられているように重い足をひたすら動かして、走り続けた。
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