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 気付くと道から外れていたが、そんなことはどうでも良かった。ほんの少し後ろを足音もさせずに確かに追ってくる毬子を背中に感じながら、僕は木々の間を抜け、草むらのなかを一生懸命走り続けた。走っても走っても絶えず違和感を感じる足は思うようには動かなかった。どんどん毬子が追いついてくるように感じて僕は死にものぐるいで足を動かして走り続けた。耳には毬子の息づかいがだんだん大きくなっていった。もはや僕の耳には毬子の息づかいしか聞こえなくなった。そのとき、手首を掴まれた気がして、あわてて振り払い、また懸命に逃げ続けた。何度転びかけても体勢をたてなおし、服が枝に引っかかろうとかまわずに、僕は走り続けた。  突然目の前の世界が揺れたと思った瞬間、僕はゆるやかな崖を転げ落ちていた。  そして、地面にたたきつけられたとき、僕は背中に痛みとは違う冷たく苦しい重圧を感じ、同時に追いつかれたと気づき愕然とした。身体の痛みなどどうでもよかった。ただ、毬子に追いつかれたということが、僕は殺されるということが、崖から転げ落ちて死ぬより、確実に死を近くに感じたのだった。
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