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しかし、ただ一つだけの足跡は着実に彼女の方へと向かっていた。一歩一歩が大きく、速くなっていく。
そして、足跡が止まった刹那。
「風邪をひかれては……困るのだがな」
ほとほと困り果てたとでも言うような男の声が彼女に向けられた。
「冥……」
「なによ……」
「遅れて……すまない」
彼なりの精一杯の謝罪と、深々と下げられた頭は彼女の瞳に微かな涙を浮かべさせた。
「遅れてくるような……バカはバカなりにバカなことを……」
「すまない……」
涙混じりの声はか細く、だが、しっかりと彼を捕らえていた。
彼女がベンチを離れ、彼を抱きしめた時には、既に雪は止んでいた。
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