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笑顔のむこう側
かくして幽霊、紗幸との二日間だけの恋愛ごっこが始まったわけだが…。
なにやら生身の女の子が俺の部屋にいるようで、どうも落ち着かない。
「それで、望さんは、水泳辞めちゃったんですか?」
さっきから俺に興味津々で質問してくる紗幸に少しうんざりしながら答える。
「まぁねー」
「勿体ないです…望さんは泳ぐのとても上手いのに…得意なのはクロールですよね!」
「あ、あぁ…」
こいつ、何でそんなことまで知ってるんだ…?
「なぁ、おまえどっかであったことあったっけ?」
一瞬、
紗幸の表情が変わったのを俺は見てしまった。
「…それより!恋人らしくデート行きましょう!」
「えぇ~今からかよー」
「…駄目ですか…?」
『オォォオ!!』
「きゃあああ!」
結局、
紗幸の押しに勝てずにデートを承諾し、今映画館にいるわけで。
しかも、色気のカケラもないホラー映画。
ゾンビとか一杯出たりしちゃうやつで、さっきから紗幸はキャーキャー言いっぱなしだ。
「きゃぁあ!!もう来ないでぇえ!」
いくら怖いといえ少し騒ぎすぎだろ、と。
「つーか、もちょっと静かにし…」
注意しかけて初めて気付いた。
あれだけの大騒ぎにも関わらず誰からの視線も感じない。
そうだ。
紗幸が見えてるのも、紗幸の声が聞こえているのも、俺一人。
そう考えると、寂しい。
何故か紗幸が愛おしくなった。
俺は紗幸の触れない手に、そっと自分の手を重ねた。
その後は飯を食べに行った。
初めて入る店で初めから少し怪しいとは思ってはいたが、いざ食べると案の定まずくて、二人で顔を見合わせて笑った。
とっぷり日が暮れた後、夜の公園で星を見た。
紗幸は妙に星座に詳しくて俺は、素直に感心してしまった。褒めると紗幸は嬉しそうに笑った。
ずっと続くといい、と少し思ってしまった。
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