ピエロと小さなお顔

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「ピエロさんのお家は何処?」 僕の名前が呼ばれている 振り返ってお辞儀をした 目の前に小さなお顔が ぼうっと浮かんでいた 何処からついて来たのだろうか パレードはとっくに終わっている 雪のように降り積もる光 大通りは人々で溢れていた 僕はそこから離れるように 煙と埃の入り交じった中を 突き進んでいた 「足跡を辿っているの?」 よく見ると地面に 一人分の足跡が残されている 僕の足跡であるはずがないと 歩を進めようと 真っ赤なブーツを そっと足跡に乗せてみる 僕は考える 僕はピエロ ピエロの一人称とは何だろうか ブーツが地面に触れる じんわりとした感触 足が引きずられるように重たい 小さなお顔は僕の手をとり ぐいぐいと引っ張っていく どんどんと街中から外れていく たっぷりとついた光の胞子が 柔らかくふわりふわりと 宙に浮かんでは消えていくのを感じた 僕には既に小さなお顔と 自分の足跡しか見えていなかった 暗闇を恐れず 寂しさに負けず ようやく 自分の意思を確認しようと 右手を固く握り 強く立ち止まったとき 辺りは暗く閉ざされ 人一人見当たらない所へ来ていた くすんだブーツ 消えかかる涙のマーク 何処に来たのだろうか パレードはとっくに終わっている 右手には小さなぬくもり だけが残されていた 「ピエロさんのお家は何処?」
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