人間への変質

4/9
179人が本棚に入れています
本棚に追加
/91ページ
いつも通りの診察。   医者のいつも通りの台詞。   看護師のいつも通りの作り笑顔。   僕の余命が3ヵ月になった所でこの病院の日常は変わらない。   診察が終わり、先生に挨拶をして僕は帰ろうとする。     「トシ君、キミ、生きる意志はあるかな?」     僕が診察室を出ようとした刹那、先生が僕に問うた。     「これは医者としてじゃなく、一人の人間としての意見だが…キミにはどうも生きたいという気持ちが無い。」     「…………。」     「そしてこれは医者としての意見だが…生きたいという意志をもっと強く持て。」     「………そうすれば、何か変わりますか?」     「変わる。その意志一つで全てが、世界そのものが変わる。」     「…………考えてみます。」     「キミが本当に生きたいと願うなら、先生は最善を尽くす。しかし先生は死にたい奴を救う程医者という職業に埋没してない。だから……生きたいと願ってくれ。」     「……ありがとうございます。」     キミを生かしたい、じゃなく、生きたいと願ってくれ、か。
/91ページ

最初のコメントを投稿しよう!