幸せの真実(2)

9/9
前へ
/91ページ
次へ
僕は電車も使わず走って病院に戻ってきた。   ……先生と話しをしに。   先生は…   もう帰っただろうか?     裏口の方へ走って行くと、先生がいた。   僕が病院を出た時と同じ場所で、同じ格好で、同じ表情で。     僕は息を切らしながら先生へ近付いて行く。       「あんた…一夏悲美を…悲美さんを……殺したな。」     「…ふん。どうやら真実を知ってしまったようだね。」     先生は…   低く、でも通るような声で淡々と喋る。     「殺したとは……人聞きが悪いな。あの娘は現在の医療では助けられなかった。」     「…………。」     「あの娘は自分が脳の疾患だと知った時に、すぐに臓器移植のドナーになると言ったよ。」     「あんたが…僕の事を言ったからか?」     「いや、違う。ただ、病気に苦しでる人を救いたかっただけだそうだ。」     「……じゃあ何故?」     「その後で、病院の心臓病の患者の中で…キミの名前を見つけてしまったそうだよ。」     「…………。」     「あの娘は―――       ―――自分の心臓でトシ君を救えると知った時、心から嬉しそうな顔で笑っていたよ。」     ……悲美さん     …悲美さん     悲美さん         僕はその場に泣き崩れた。
/91ページ

最初のコメントを投稿しよう!

179人が本棚に入れています
本棚に追加