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意地を張って、張り続けて、くたびれたのにまだ張り続けているよ、ごめん。
もうやめようと思ったのに。
もう帰ろうと思ったのに、
意気地なしで、
ごめん。ごめんねえ。
しかしそんなこと言えるはずもなく、体裁よくきびすを返す。
目頭があつくなり、早足で駅のほうに向かおうとしたとき、
クラクションが鳴った。
一回。
二回。
振り返ると、Uターンした父が窓を開けて手を大きく挙げている。
またな。と言う顔だった。
子供のころからずっと見てきた厳格な父親の顔で、
帰ってこいよ。と言われた気がした。
光るようにタクシーは走り去った。
私はまた歩き出す。他の人がそうするように。
だけどさっきまでとは違う。
何度も迷っても、今日のように一度決めたのに立ち止まって逆に歩いてみても、
だいじょうぶ。帰るところが見つかったから。
さっきの言い訳は言い訳ではなくなり、目標になった。
父はいつまでも父のままだった。
「帰るよ、絶対。何もかもを終わらせて、ここからまたはじめるために帰ってくる」
逃げるためではなく、はじめるために。
私は荷物を片手で持ち、駅の重いガラスの扉を、ぐい、と押した。
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