笑顔

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笑顔

気がつくと冬を迎えた。医者から、もって半年なんて言葉を聞いてからすでに一年経っていた。 おばあちゃんは、歌が好きだ。レコードやカセットテープは数え切れない程持っている。その頃、よくテレビで思い出の名曲みたいな番組があって、夜一緒に観てると終始観ながら歌ってる。これだっ!すぐにビデオに録った。 そして、次の日から二人になるとすぐ歌番組を流した。すると効果てきめん。楽しそうに観ている。ほっとしていると番組終了。で、またいつもの調子。どうすればいいか悩んでるとその日の夜、いかりや長介の追悼でドリフ大爆笑がやっていた。それをゲラゲラ笑いながら見入っているおばあちゃんがいる。すぐさま録画。何日かあとにも、ちょーさんの追悼で何度かテレビでやっていたのも録画。おばあちゃん専用ビデオの完成である。そのビデオの威力はすごい。例えるなら、水戸黄門の印籠と同じくらいの威力だ。 あと、食べたことを忘れてしまう。志村けんのコントのように。30分毎に『なんか腹減ったなぁ』とつぶやく。お茶菓子大好きなおばあちゃんなので、そのたびに僕がお茶を入れお菓子を出す。そして、しっかりお菓子をたいらげる。 そうして、一日中お菓子を食べている。ご飯の時間になれば、しっかりご飯を一膳食べる。そんな姿をみると、これだけ食べるのだから元気に要られるのは当たり前だな、『食べる』ってことの大切さを再認識した。 そんな日々を過ごし、対応も慣れてきた。おばあちゃんが外の景色を眺めている隙にビデオを巻き戻し、腹減ったなぁという前にお菓子をスッと出す。夜こそは寝付けず騒ぐが、随分と穏やかに日々が流れていった。 12月31日いつも通りの顔ぶれ、すると冗談まじりに『はーお正月迎えるのも最後かもしんねぇど』と一言。笑ってはみたもののなんとも言えない気持ちになった。
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