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めんどくさい。とけだるそうに吐き捨て、いつの間にか頬に貼り付いていた髪を払った。
逆に先ほどまで無気力全開だった男の方は、
「なにぃ!?」
と一変して好奇心フルモード。目をキラキラさせながら、右手を口元に当てて饒舌に喋り出す。
「そうか。あの子の……美嶋だっけ?……とにかくその子の歓迎会を……。フフフ、良いぞ。これで明日には白黒ハッキリつけることができる。見てろよ。勝つのは俺だ。ええぃ!このボルテージ、明日まで待てそうにもない。よし!俺も一緒に様子見に……」
その言葉が、引き金。
「ふざけんなボケェ!!」
「ぶごっ!!!」
一気に距離を詰め、身長を生かした上での彼女の突き上げた蹴りが、ものの見事に男の顎を打ち抜いた。
【5】
携帯の待ち受けをのぞく。時刻は7時50分。目の前には廊下と談話室を繋ぐ大きめのドアが構えており、はめ込まれた磨ガラスには大きな字で「入る時はノックを!!」と書いてある。
どうしたものか……と、華穂は考えた。
あらかじめ言われていた場所は1階の談話室――ここで合っている。
時刻は午後の8時――10分前行動に狂いはない。
ドアの向こうからはくぐもったひそひそ声――まだ準備の途中なのか、それとも自分を待っているのだろうか。
ただ1つ、入りにくい状況であるのは確かである。小学校の頃から、華穂はこのようなパーティーだとか打ち上げとか言うイベント物が苦手だった。自分の何気ない行動や言葉で、場の空気を乱すのが怖いのである。
そのため、過去のこのような催しで、自分はほとんどと言って良いほどに目立つ行いをしなかった。
参加はする。だけどそれだけ。いないじゃ迷惑がかかるから、出席だけしてあまり深くは関わらない。そうやって、やり過ごすような形を取り続けてきたのだ。
決して人付き合いが苦手と言う訳じゃない。大阪の方では、クラスのみんなと仲が良かった。イジメや陰口も、自分の視界範囲内でされた覚えはない。
ただ、こういった集団がまとまって何かをするという行動だけは、どうしても慣れないのだ。
が、今回ばかりはそうも言ってられない。なにせこの歓迎会は自分を歓迎するイベントなのだ。自分を中心に、なのに自分の知らないところで事態が進行している。
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