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「あ、え、えっと、その、歓迎会に呼ばれて、それで、その、入ろう、と、してて……」
しどろもどろながらも返答に成功。それを聞いた彼女も目尻の角度を若干ではあるが下げた(ように華穂には見えた)。
「あぁ、あなたが美嶋さんね。あの時はちょっと立て込んでて顔をよく見てなかったわ。ごめんなさい」
その言葉で、ようやく華穂も思い出す。確かこの少女は、自分の自己紹介の際に隣の男子の耳を引きちぎらんとばかりに引っ張っていた、あの少女だ。名前を確か、高条……
「場所はここで間違いないわよ。ほら、入って入って。たぶんみんな、もう待ってると思うから」
この時華穂は、のんきに今日の記憶の断片を探してなどいる場合ではなかった。今まさに、少女が「入る時はノックを!!」の張り紙をガン無視で、ドアノブに手をかけ回そうとしていたのだ。
「え?あ!ち、ちょっと!」
「?」
華穂がその事に気づいた頃には、もうすべてが遅かった。彼女はすでに、ドアを思いきり開け放った後だったのだ。
パァン!パァン!パアァァン!!
勢いの良い破裂音が鳴り響き、華穂は思わずたじろいだ。吹き飛ぶ色とりどりのリボンが、少女の髪や肩にかぶさった。ドアが開くと同時にクラッカーの紐を引き抜いた歓迎会先客の面々は、入ってきた人物を確認すると全員が全員口を半開きに唖然とした。
「……………何?コレ」
肩にかかったリボンをつまみ上げてそう言った小柄な少女を見て、華穂は心の中で泣いた。
「どうしよう」という一言を脳内でひたすら反芻させながら。
***
建物の屋上で、彼は大きなあくびを1つ。昨日の夜パソコンでのネットサーフィンが深夜5時まで続いたために、瞼が重くて仕方がない。が、立場上ベッドに横になることはままならず、かと言ってひたすらあるいてもいつかは睡魔に敗北して道端でぶっ倒れる可能性も十分ありうる。さっきまでは話し相手がいたために眠気をいくぶん紛らわす事もできたが、1人きりではこのまま意識としばしの別れを告げるのに拍車がかかるのみである。
「暇だ」
彼は呟くが、実のところはまったくの正反対。今も「任務」でせっせと働かなければならない。だが、怠惰な彼がそう自ら進んで面倒事に取り組むはずもなく、現に今もこうして屋上でサボリを慣行している。
「よし、寝よ」
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