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義務づけられた仕事をたった一言であっさり投げ出し、床のみ壁なし天井なし、まさに風通し全開の屋上で寝転がる。
少々アスファルトが堅すぎるが差し支えない。今の彼の睡眠デサイルに勝るものなど何もないのだ。強いて言うなれば、マジギレした飛鳥くらいだろう。
両手を枕のようにして仰向けになる。すると彼の視界は蒼い夜空と光る星々、そして黄色い三日月に覆われた。
やがて彼の瞼が重くなる。ゆっくりと、目を閉じていく。そうして、あと5秒もすれば瞼は隙間なく閉じて、そのまま夢の中にタイブするだろう。そんな時だった。
「!」
彼は上半身を瞬時に起こした。しっかりと見開かれた両目が、ある方向だけをじぃっと見つめる。
「来たか」
脳か、はたまた「感情」というやつか。何にしろその何かが彼の眠気を吹き飛ばし、体内から何度も警戒を発する。
――そう言えばここにもいたな。俺の睡眠を邪魔するヤツが。
彼は心の中で嫌になるくらい敏感な第六感を毒づきながら立ち上がり、一気に屋上を駆け出した。目の前には落下防止用の金網。2m以上はゆうにあるそれを彼は一跳びで乗り越え、夜の学校に繰り出した。
***
【6】
「だからいつも言ってるでしょ!飛鳥はもうちょっと周りをよく見るべきだって!」
1人の少女に激が飛ぶ。飛ばした方は仁王立ちで、それなりに大きい声を出したつもりだったが、この喧噪の中でそれはすぐに薄れて消えた。
「……悪かったって言ってるじゃない」
しばらく間を空けて激を飛ばされた側の高条飛鳥はボソリと言った。地面に正座させられているおかげで、漆黒の長いポニーテールにまとめられた髪がなよなよと床に垂れている。
「あなたはそれを私に言うのが何度目か、覚えているかしら?」
「むぅ………」
完全にのめされて、飛鳥は俯く。彼女の顔、特に頬周りが、少し紅く火照っていた。不注意による自分のミスと、それのせいで人前に正座させられていることがたまらなく恥ずかしいのだ。
「……ごめん」
「あ、ほ、ほら、マキちゃん。アーちゃんも反省してるし、それに今日は歓迎会かいなんだし、もう今日は、ね?」
「そ、そうですよ!私、その、あの、全然きにしていませんから!」
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