第1話:少女の人生未体験エリア

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「美嶋さん、私たち同い年でクラスメートなんだし、そんなに堅くならないならない。ほら、顔上げて」  まるで母親が我が子にかける言葉のように柔らかな口調に、華穂もついつい言われたとおりにしてしまう。と、眼前に彼女の小さな手が差し出されていた。 「握手」  それだけ言って、にっこり微笑む飛鳥。その表情を見て、華穂は体の奥から温かさが沸き上がってくるのを感じた。 ――それは、一般的に「安心」と呼ばれる感情。  華穂は、自分がこの学園に足を踏み入れて、今ここでようやく安心できるモノを見つけたのだ。 差し出された手を握り、華穂は言う。 「はい!じゃなかった、うん、よろしく!ええと……」 「飛鳥。高条 飛鳥。できれば、下の名前でよろしくね、華穂」 「こちらこそ、飛鳥さん!」 「あーハイハイ!私、園原 恵理子!ヨロシクヨロシクー!で、こっちが……」 「私、桜野 春菜!よろしくね、カホちゃん!」  タイミングを見計らって、小麦肌の少女恵理子と、セミロングの少女春菜が名乗り出る。  その後、場は自然と皆の自己紹介タイムへと発展していった。  次々と紹介されていくクラスメートたちの名前を必死に覚えようとしながら、ふと華穂は思う。  何も心配することなどなかった。ここでも、しっかりと暮らしていくことができそうだ、と。 【7】  創宮学園清和寮。午後9時を回った今現在、外出する者は1人もいない。はずなのである。通常ならば。   ギイィ……  寮の女子区2年棟。その西側出入り口が静かに開く。中から顔を出したのは、つい今し方歓迎会を終えたばかりの美嶋 華穂だった。扉を閉め、特段急いだ様子もなく歩を進めていく。  向かう先にそびえ立つのは、創宮学園の校舎棟の数々である。     *** 「っクソ!!」  彼はその場で地団太を踏んだ。まったく、自分の詰めの甘さに嫌気がさしてくる。誰かに一発殴って貰いたいぐらいだ。   ブブブブブ……、ブブブブブ……  と、彼にズボンのポケットから細かい振動が伝わった。マナーモードにしておいた彼の携帯によるものだ。  急いで取り出して待ち受けを開くと、そこにはドットで描かれた見知った名前。辺りへの警戒を怠る事なく、彼はそれを耳へ押し当てた。 「俺だ」 「うぃ~っす。そっちの状況どおだ~?」
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