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「美嶋さん、私たち同い年でクラスメートなんだし、そんなに堅くならないならない。ほら、顔上げて」
まるで母親が我が子にかける言葉のように柔らかな口調に、華穂もついつい言われたとおりにしてしまう。と、眼前に彼女の小さな手が差し出されていた。
「握手」
それだけ言って、にっこり微笑む飛鳥。その表情を見て、華穂は体の奥から温かさが沸き上がってくるのを感じた。
――それは、一般的に「安心」と呼ばれる感情。
華穂は、自分がこの学園に足を踏み入れて、今ここでようやく安心できるモノを見つけたのだ。
差し出された手を握り、華穂は言う。
「はい!じゃなかった、うん、よろしく!ええと……」
「飛鳥。高条 飛鳥。できれば、下の名前でよろしくね、華穂」
「こちらこそ、飛鳥さん!」
「あーハイハイ!私、園原 恵理子!ヨロシクヨロシクー!で、こっちが……」
「私、桜野 春菜!よろしくね、カホちゃん!」
タイミングを見計らって、小麦肌の少女恵理子と、セミロングの少女春菜が名乗り出る。
その後、場は自然と皆の自己紹介タイムへと発展していった。
次々と紹介されていくクラスメートたちの名前を必死に覚えようとしながら、ふと華穂は思う。
何も心配することなどなかった。ここでも、しっかりと暮らしていくことができそうだ、と。
【7】
創宮学園清和寮。午後9時を回った今現在、外出する者は1人もいない。はずなのである。通常ならば。
ギイィ……
寮の女子区2年棟。その西側出入り口が静かに開く。中から顔を出したのは、つい今し方歓迎会を終えたばかりの美嶋 華穂だった。扉を閉め、特段急いだ様子もなく歩を進めていく。
向かう先にそびえ立つのは、創宮学園の校舎棟の数々である。
***
「っクソ!!」
彼はその場で地団太を踏んだ。まったく、自分の詰めの甘さに嫌気がさしてくる。誰かに一発殴って貰いたいぐらいだ。
ブブブブブ……、ブブブブブ……
と、彼にズボンのポケットから細かい振動が伝わった。マナーモードにしておいた彼の携帯によるものだ。
急いで取り出して待ち受けを開くと、そこにはドットで描かれた見知った名前。辺りへの警戒を怠る事なく、彼はそれを耳へ押し当てた。
「俺だ」
「うぃ~っす。そっちの状況どおだ~?」
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