第1話:少女の人生未体験エリア

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【1】  4月3日、日曜日。  その日、私立創宮学園の校門付近には、立派な礼服に身を包んだ父母と並んで校門を通る真新しい学校制服を着た少年少女でひしめいていた。  錆びた重い鉄製の扉の両側には立派な桜の木が淡い桃色の花を散らし、今日新しくこの学園に入学することとなったその少年少女を歓迎している。  少年少女――新入生は1人1色に入学式までの割と暇な自由時間を持て余していた。  ある者は新天地での生活に緊張し、ある者は中学の元同級生と掲示板に貼られた1年生のクラス分けに一喜一憂している。 「ほぇ―――――――」  その中でただ1人、他の生徒とは違う色合いの腕章をつけている少女、美嶋 華穂は前者でも後者でもなくただただ目の前にそびえ立つ校舎にしてはあまりにも大きい、まるでビジネスビルのようなバカデカい建物を口をホカンと開けて見上げていた。  私立創宮学園は単なる私立高校とはいろんな意味で違いすぎていた。  私立創宮学園の正式な名称は私立創宮学園東京高等部。  創宮学園は日本には福岡、東京、大阪の3ヶ所に存在しており、さらに初等部、小等部、中等部、高等部の4つに別れる。つまり、日本には合計で12の創宮学園があるのだ。  その中でも東京の創宮学園は他のものよりもずば抜けていた。  元々初めて創設されたのが東京の中等部であったため、自動的に周りの学園もそれなりの予算を得ることが出来たのだ。  美嶋 華穂の驚きはそこにあった。  彼女は新入生ではない。この年から大阪の創宮学園からこちら東京のソレへ2学年から編入する、言わば転校生なのである。だがコレは、かなり異例な方の編入であった。  創宮学園は3ヶ所全てが全寮制、つまりは創宮学園から創宮学園への編入は基本的に有り得ないのである。  美嶋 華穂及びその家庭には、何らかの事情があると思われているが、それは本人または創宮学園でもそれなりの地位を持つ者しか知らない。 「…あ」  呆けていたその張本人美嶋 華穂は、急に頓狂な声を上げた。  見上げた校舎、その壁にかけられていた時計が、入学式の開始10分前を示していたのだ。 「いけない」  それだけ呟いて、美嶋 華穂は腰ほどまである長いブロンドの髪をたなびかせながら、会場となる体育館へと、足を動かした。
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