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創宮学園には創設以来ずっと水で満たされ続けている池がある。意外と深いその池は水がしごく透き通っているにも関わらず、池底を見ることができない。
学園の教師達は、水深は2、3mと言っているが、それをもっぱら信じようとしないのは生徒の定評だ。いつしかここは、『竜眠池』などと呼称されるようになった。竜が安眠できるほど深い池、と言う意味らしい。
その池のふもと。雑草による天然芝生に少年が1人、仰向けに寝転がって目を閉じている。
恐らく175は越えているであろうなかなかの長身に、方向の定まっていないボサついた黒髪。創宮学園の制服である薄緑のブレザーを乱雑に着ている。
長身で全体的にスラリと見えるものの、体はなかなかの筋肉質である。
さらにその後ろ。寝転がっている少年と若干の距離をとってもう1人、背筋をピンと伸ばして立っている少年がいた。黒髪の少年とは違い、こちらはキチンとブレザーを着こなしている。
茶髪がかった頭髪は短めに切りそろえられ、第1印象にスポーツ少年を思わせるその少年は寝転がっている黒髪の少年に注意を促すように声をかけた。
「……おい。そろそろ入学式、終わるみたいだぞ。」
「ん~?あぁ、そうかそうか~~。」
重そうにまぶたを開けながら、黒髪の少年は言った。真面目な返答か、それとも単に寝ぼけているのか、どうも判別するのが難しい。
「おら、急ぐぞ。確か編入生が来るの今日だろうが」
眉をひそめながら、茶髪少年は二度寝に勤しもうとする黒髪少年の襟首をつかみ、引きずりながら校舎の方へ歩き出す。
「あ!おいコラ!引っ張るな!伸びる!」
「知るか」
「なんだよ!あと5分くらい良いじゃねぇか!親友としてここは寝かせてやるのが鉄則だろ!」
「それも知らん。何の鉄則だ。大体俺は親友の為に一緒に不良になるほど良い人できてないんだ。」
「さすが、6月は冷たいな」
「死ね」
「ひど!」
下らない罵詈雑言を並べながら、2人の影は池から校舎へと消えていった。
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