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【2】
カッカッと教室にリズミカルなチョークの音が響く。
深い緑色の大きな板、つまりは黒板その中央に書かれた、多少のクセを持った4文字の漢字。
『美嶋 華穂』
自分の名を書き終えてくるりと振り向くその少女は、誰もが一目で地毛だと分かるくらいに自然体な茶色い髪を肩近くまで垂らし、鼻と口は小さめ、しかし目はくりんと大きめのまさに美少女である。
「えーそれでは、今日から皆さんと同じこの教室で学生生活を共にして貰うことになる……」
「美嶋 華穂です。どうぞよろしく」
舌足らずな声もなかなか、さらには深いお辞儀で垂れる細いサラサラした髪。
湧き上がる拍車の中、教室のほぼ半分、つまりは男子連中が、
「やべぇ、すっげー可愛い」
「惚れた。俺告白する」
「向こうに彼氏残してんじゃね?」
「寝るときはパジャマだよ。ああいうタイプは、絶対」
などと声を漏らす。
全寮制の彼らにとって、別の学校から来た美少女というのはめったにお目にかかれるものではなく、皆揃い揃いに「このクラスで良かったよ」と幸せを噛みしめているのだ。
そんな半混沌状態のクラスのなか、右隣の席の女子に耳を思い切りつまみ引っ張られる男子が1人。
「ど、う、し、て!アンタは入学式にまで遅刻してくんのよ!!」
引っ張っている側は黒い長髪をポニーテールにまとめている少女。普段からつり上がり気味の目を更につり上げ、かなりの剣幕(しかし小声)でまくしたてている。
「む、惜しい。やっぱここは『アンタって人」
「うるさい!」
「ぁ痛ててでててて!!」
一方の引っ張られる側の男子はボサボサと手入れ皆無の黒髪にスラリとした長身。
竜眠池のそばに寝そべっていた彼本人だ。
しかも更にその前隣には、黒髪の彼と一緒にいた茶髪少年すらも。
「……こりゃ、色々大変な事になりそうで……」
こちらはたまに染めているのかと聞かれる茶髪をポリポリと掻きながら呟いた一言は、誰の耳にも入ることはなかった。
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