第1話:少女の人生未体験エリア

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【3】  創宮学園学園寮『清和寮』。ほぼ全ての学生が寝食をここで行う。  清和寮の棟舎は男女2分の1年棟2年棟3年棟の全六棟あり、基本的に先輩棟と異性棟の出入りは絶対禁止。例外は食堂館と浴槽館のみという、規模以外は普通のどこにでもある寮そのものなのだ。  その清和寮女子2年棟の3階。中央階段から東側、歩いて3番目の部屋のドアには、「美嶋 華穂」の4文字。つまりここが、華穂の新たな学校生活の礎となる部屋なのである。 「ふぅ……」  あらかたの荷物を搬入し、親を家に送り出すのを経て、華穂はようやく一息つく事を許された。  携帯を見ると時刻は午後5時をもうすぐ回ろうとしており、窓から覗く光は確かに赤らみを帯びていた。  華穂はなにをしよう、と思案顔をして考え込む。新しいクラスの何人かから、夕食は6時からと言う情報は入手している。手持ちぶさたなこの1時間弱、とりあえずベッドに腰かけ、ヒマを持て余す方法を考える。  そしてまず行動を起こしだのが、この学校のあまりの規模にため息をつく事だった。  とにかく広く大きいのだ。校舎も、校庭も、ここ清和寮も。  もちろんここ、美嶋 華穂に割り与えられた個室も別格大きかった。10畳ものスペースにベッドとタンスと勉強机、更には本棚が側面の壁に隙間なくぴっちりとはめ込まれており、冷暖房完備のクーラーに冷蔵庫、コンセントが6つ、更には無線LANまで通っている程の完全設備。テレビやゲーム機なども持ち込みOKで、正に楽園である。大阪の創宮学園とは、まるで段違い。こんな設備で「授業料、寮費及び行事費用は全て学校側負担の全面免除」とは、虫が良すぎてまったく恐ろしい。  と、  コンコンっ  乾いた音が華穂の耳に入る。自分の部屋のドアを何者かがノックしたらしい。「どうぞ」と声をかけたその半秒、ガチャリとドアが開き、ノックしたその人が部屋に顔を覗かせた。 「ども!えっと、美嶋華穂さんだよね?」  顔を見せると同時、ハキハキと口を動かすその女子は、先ほどクラスのホームルームで自己紹介をしていた記憶がある。 「あのさ、今日の夜メシと風呂入って8時頃にこの棟の1階の談話室来てくんない?クラスの、つっても女子だけだけど、歓迎会するからさ。じゃ!」 「え?あ…」  聞き返そうとしたときにはもう遅く、ドアは閉まって姿すら既に見えなくなっていた。
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