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「秋良ちゃん!」
制するはるかの声に、盗賊達がどよめいた。
「秋良!? まさかお前っ…運び屋の――」
「運び屋ぁ?」
「ほら兄貴、酒場の奴らが言ってた――」
「びびってんじゃねぇ! 弟の敵だ、殺せ。お前は女を殺れ!」
盗賊二人は憎しみを宿した眼で秋良たちを見た。その眼が自分をも捉えているのを見て、急いではるかも刀を抜く。
頭上に迫った次男の白刃を、はるかは反射的に抜いた刀で受け止め、刃渡りを滑らせるように横に流した。
まともに受け止めては、力でかなう相手ではない。
そういう判断も、次々繰り出される刀をかわす術も、どこで身につけたものなのか……。ただ、考えるより先に体が反応するのだ。
「くそっ」
思いも寄らぬ苦戦に、男は苛立っているようだ。
恐怖と緊張の中、ただ早鐘のようになる鼓動だけがはっきりと聞こえ、剣戟(けんげき)の音はどこか遠くから聞こえてくるように感じる。
刀を振るうときはいつも。まるで自分の中で、別の自分が体を動かしているような感覚――。
だけど違う。
妖魔が相手なのとは違う……生身の人間だ。
怖い……。
殺そうと、している……
その刀が、刀を持った腕が、腕を動かすその意思が、その存在を形成するすべてが――
「ぐっ…」
うめき声。男の右腕から鮮血が散る。はるかの剣先がかすめたのだ。
「あ……」
一瞬我に帰ったはるかの、その隙を男は見逃さなかった。
渾身の力をこめた一撃がはるかを襲う。
白い砂の上に、大量の血がこぼれ落ちた。
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