第壱話 月夜の砂漠

8/10
前へ
/190ページ
次へ
直後に、刀を握ったまま赤い蠍の腕が血痕の上に転がる。 「ぐぁああ!」  右肩を押さえて、男は崩れ落ちた。 その後ろに秋良がいた。  男にとどめを刺すべく、小曲刀を振りかざしている。  その切っ先は正確に男の首筋を狙って――。 「秋良ちゃん、だめぇ!」  秋良の小曲刀が空を斬る。 はるかの叫びに、秋良の刀に迷いが出たのだ。 男は紙一重のところで転がるようにして秋良の一撃をかわしていた。 そのままよろけながら走り去ってゆく。 「このっ」  秋良は舌打ちし、男を追って走り出した。  ……はずだった。 「やめて秋良ちゃん、もうやめてぇ!」  はるかは全体重をかけて、振りほどこうとする秋良の腕にしがみつく。 ――やがて、秋良の腕から力が抜けた。 「……放せよ。もう行っちまった」   はるかは秋良の腕にからめていた腕をゆっくりと放し、あたりを見回した。   砂の上にかつて生きていた者の亡骸が二つ――。 周囲には生きている者の気配は無かった。    
/190ページ

最初のコメントを投稿しよう!

144人が本棚に入れています
本棚に追加