第壱話 月夜の砂漠

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 不意に視界がぼやけた。  瞬きをすると、頬を伝って涙が落ちる。  どうしてか、悲しい気持ちでいっぱいだった。  それは、人が死んでしまったのが悲しいのか……それを止められなかったせいなのか……。  それもあるかもしれないけど、きっと一番の理由は――   秋良はため息をつき、はるかの頭巾を持ち上げると勢い良くはるかの頭にかぶせた。 「ほら、行くぞ。凍える前に街につかねぇと」  そう言う秋良の声は、普段よりもほんの少しだけやわらかいような気がした。  はるかは両手で顔をぬぐう。  目をあけると、頭巾をかぶった秋良が、放りっぱなしのはるかの細身刀を拾い上げているところだった。  立ち上がり、はるかのほうへ歩きながら刀を一振りして砂を払い落とす。  歩き出した秋良は、はるかの横を通り過ぎざま、刀を逆手に持ち替えてはるかに押し付けた。  はるかは受け取ったそれを鞘に収めると、街を目指す秋良の背中を追いかけた。  ――誰かを殺めたときの、秋良の背中はいつも泣いてるみたいだから……   風がより強さを増し、砂を巻き上げてゆく。 砂塵はやがて、夜空に浮かぶ満月をも覆い隠していった。
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