第弐話 運び屋

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 陽昇国(ひいづるくに)という島国がある。  長さ百五十里(600km)、幅百里(400㎞)の二つの島を、「く」の字を逆にした形にくっつけたような形のこの島。  言い伝えでは世界創世の頃、太陽がこの島のすぐ近くの海から昇ったとされ、それが名前の由来となっている。  島の中央にそびえる山脈の南側は、その半分以上が砂漠に覆われている。  この沙流(さる)砂漠は東西に長く、岩山に囲まれた東の方は昼夜の気温差も過酷だ。  一方西側の方は砂漠の幅も狭く、一番細くなっているところで三里(12km)。  ここの位置をはさんだ両端に街があった。   北端にあるのが琥珀(こはく)。そして南端に位置するのが沙里(さり)。  沙里はそれほど大きいわけではなく、砂漠の乾燥と暑さに耐久性のある石作りの建物と石畳が街全体を占める街である。  砂漠の入口にあるとはいえ、昼を過ぎるころには三十度を過ぎる暑さとなる。  そして夜はうって変わっての寒気。  そのため、街の住人達が屋外にいるのも自然と過ごしやすい時間に集中する。  ちょうど今頃……明け方になると、夜の空気に冷やされた石造りの街並の冷気と昇り始めた太陽の日差しとで涼しいくらいの気温になるのだ。  石畳の路地を、砂漠の民らしく麻でできた白い衣服を身にまとう人々が行き交う。  その中を足早に通り抜ける一人の少女の姿があった。  革底に麻紐の帯の履物が軽やかに石畳を蹴る。  胸元に光る瑠璃(るり)色の石が、その足取りに合わせて弾み、朝の陽光を取り込んでやわらかに輝く。  白い麻の衣服。膝のあたりまである半袖の長衣の腰に、若草色の帯を結んでいる。  街の人たちと大差ない格好をしているが、朝の陽光をうっすらとまとったような金色がかった髪が目を引く。  このあたりにもともと住む者はたいてい黒か茶の髪をしている。  もちろん、外の大陸から移住して来た者も例外としているが、数としては圧倒的に少ない。  空を見上げると、群青と薄紅を両端にした濃淡が広がっている。 ちょうどその中間の紫がそのままそこに落ちたような瞳が、石造りの街並みの向こうにかすむ太陽を捕らえた。  まだ太陽は東の空を昇り始めたばかり。西方にはまだ夜の空のなごりがある。
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