第弐話 運び屋

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 不審に思う老人を前に、はるかは少しだけ顔を上げて老人を上目遣いに見つめた。そしておずおずとたずねる。 「えっと……秋良ちゃんが、何かご迷惑を?」 「? いや、そうではなくて、荷物を……」  その一言で、もともとわずかな赤みを帯びたはるかの頬が、ぱあっとばら色に輝いた。 「もしかして、何か運んでほしいもの、あるの?」  ずいっと詰寄るはるかの迫力にやや気おされながら、老人はうなずいた。 「それなら、私についてきて。今ちょうど帰るところなんだ」  風と自分の回転で乱れた長い金色の髪を、かごを持たない右手で簡単に整えてはるかは歩き出した。  老人もひょこひょこと歩き始める。  少し歩くと、すぐに老人との間に距離が開いてしまった。  はるかは慌てて歩調を緩めた。  ひょこひょこ歩いているように見えるのは、片足をかばうようにしているからだということに気づかなかったことを内心反省した。 「それでは、はるか殿が運び屋なのかね?」 「ううん、私は『いそうろう』だから、おてつだいみたいなものかな」  はるかは老人を誘導しながら、さらに狭い奥の路地へと入っていく。  隣につくようにゆっくり歩きながら、老人の様子を観察した。  並んでみると、思っていたよりも背が小さい。  腰が曲がっている分を考慮するとしても、五尺二寸(156cm)ちょっとしかないはるかの、肩をこえるくらい。  そのせいか、身にまとった茶色の外套は引きずるほど長い。  ちょっと見ただけでは顔がほとんどわからないほど深くかぶった外套の頭巾。 今はまぶしく感じるほど日が照っているわけでもない。そんなに目深にかぶる必要はない気がするのだが。  よく考えてみると、この沙里(さり)の街では見かけたことのない人物だ。 「おじいさん、どこからきたの?」 「わしは糸潮(いとしお)の村からきたんじゃ」 「おじいさん一人で? 大変だったでしょう?」  糸潮の村は沙里の南にある海沿いの漁村だ。  距離にすると二里(8km)ほどしかないが、言うまでもなく途中には妖魔も出る。  しかも老人のこの足で、一人でここまで来るのは簡単なことではないはずだ。
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