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秋良はあきれきった様子ではるかを見下ろした。
「大方、犬か猫でも見つけて餌付けしようとでもしてたんだろ」
図星をつかれて顔に赤味が差すはるかを尻目に、秋良は表口のある部屋に向かった。
後ろでひとつに束ねた長めの髪を、はるかが追いかける。
「あのね、お客さんを連れてきたの」
「客だって?」
秋良の問いかけにうなずき、はるかは入口を見た。秋良もその視線を追う。
半分開いたままの扉から、徐々に強みを増してきた朝の光が差し込んでいる。
が、一緒に来たはずの老人の姿はなかった。
「あれ?」
「何だよ、誰もいな……」
「お邪魔しておりますぞ」
突然の声。
秋良が鋭く右を振り返る。
それに遅れて、はるかがのんびりと振り向いた。
角卓の端、二つ置かれた椅子のうちの一つに茶色の外套をまとった背中を丸めて、一人の老人が腰掛けていた。
「なんだぁ、そこにいたんだ」
はるかがほっとした笑顔で両手を胸の前で合わせた。
これで老人がいなかったら、またもや秋良に殴られるところだった。
「ほらねっ、お客……」
秋良の顔を見上げたとたん、はるかは声を失った。
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