第弐話 運び屋

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 ごはんくらい、食べさせてくれたっていいじゃない。  と、抗議しようとしたはるかだったが、すぐに思いとどまった。  なにやら機嫌を損ねた秋良に食ってかかるのは利口ではない。こういうときは放って置くのが一番だ。  はるかはしぶしぶ覚え書きの手帳を再び取り出し、新しい頁を開く。手帳の表紙にはさんでおいた鉛筆を持ち、老人の方に向き直った。 「待たせてごめんね、おじいちゃん」 「なんの、朝食はいいのかね?」 「……うん、後で食べるから」  はるかの言葉に重ねるように、腹の虫がきゅうと鳴った。とたんにはるかの顔が真っ赤に染まる。  あっという間に包みを空にした秋良は、立ち上がり再び本を手にすると、あきれた表情ではるかの前に竹の包みを放った。  はるかは我慢しきれずに包みを開いて食べ始めた。  女の子としてはあるまじき勢いで食べるはるかを横目で見ながら、砂梨(すななし)を一つつかむ。  椅子を引きずりながら本棚の前まで来るとどさっと腰をおろし、そこで本を読み始めた。  数分後、はるかは蒸飯の包みから手帳に持ち替え、改めて老人の方に向き直る。 「お待たせしました」 「なんの、見事な食べっぷりじゃった」  言って微笑む老人に、はるかはさすがに恥ずかしくなって手帳に視線を落とした。 「えと、どこまで、何を、いつまでに運んでほしいのか教えて?」 「運んでほしい場所は琥珀(こはく)までじゃ。ここまで届けて下さらんかのぉ」  老人は簡単な地図を差し出した。道や広場などの位置から、琥珀内の地図のようだった。 「運んでほしいのは、これなんじゃ」 とん、と卓上に置かれたのは、両手の上に乗るくらいの小さな箱だった。  それを見て、はるかは困惑した表情を浮かべた。  荷物を運ぶのは重さ一石から、つまり報酬が保守料込みで五銀以上からということになっている。  しかし今目の前にある箱は、大きさにしろ重さにしろ明らかに半石もない。 はるかが説明しようとすると、秋良が ぱん、と本を閉じた。「断れ」の合図だ。 「あの……」 「届けてもらうのは早いほうが良いのじゃが、送り先の家が出かけておると困るでな。ぜひとも、夕方頃におねがいしたいのじゃが」 「でもねぇ、おじいちゃん……」
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