第弐話 運び屋

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「引き受けるには荷物が小さ……」 「わかりました、お引き受けいたしましょう!」  秋良の大きな声が、はるかの言葉を遮った。  はるかが振り返ると、秋良の目はしっかりと卓上にある金色の輝きを見つめている。  老人は満足そうな笑みを口元に浮かべると、卓を支えに立ちあがった。 「それでは、夕方に、その地図の場所へ……頼みますぞ」  老人は入口へ向かった。はるかが後を追い、入口の戸を先に開ける。  そのはるかの横を通り過ぎながら老人は軽く会釈をし、路地に出た。  はるかも続いて外にでる。  太陽は完全に姿を現し、風はまだ涼しいものの日差しはその熱を強めて来ている。 「おじいちゃん、気をつけてね」  はるかの声に老人は一度だけ振り返り、来た時と同じようにひょこひょこと路地の奥へと消えていった。  それにしても金が四枚なんて、とんでもなく大金だ。  銅が百枚で銀一枚。銀が十枚で金が一枚。金四枚で砂梨を買うとすると……? 「えっと……??」  指折り数えてみたが、すぐにあきらめた。  食べきれないほど買えるということは間違いない。秋良もきっと大喜びしているところだろう。  戸を閉めて家の中に戻るとはるかの予想通り、四枚の金を喜々としてしまいこむ秋良の姿があった。 「ぼさっとすんな、はるか。すぐに出ないと夕方に間に合わねぇぞ」  言いながらも、手際よく身支度をはじめる。  はるかも慌てて支度をはじめるが、秋良のようにははかどらない。  旅用の服に着替えて刀を腰に帯びた時、ばさっと頭の上に何かがかぶさり、前が見えなくなった。 「わぁっ」  上半身をすっぽり覆ったそれをはがすと、はるかの外套だった。 「さっさとしろって。置いてくぞ」 「えっ、待ってよぅ」  見ると、すっかり準備を整えた秋良が家を出ようとしているところだった。  急いで外套を羽織り、ぱたぱたと出入口の扉へ向かう。  開かれた扉からまぶしい光が室内を照らす。  外へと踏み出しながら秋良が振り返った。 「荷物、忘れんなよ」  すっかり角卓の上に忘れられていた小箱を、はるかはそっと持ち上げ、革の袋に入れた。  袋の口を紐できゅっと結び、懐に入れながら秋良の後を追って外に飛び出した。  扉は勢いよく閉められ、扉にかけられた錠の音が、再び薄暗くなった室内に響いた。
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