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「あれっ?」
そこにはいつもの硬い手ごたえは無かった。
外套の襟を引っ張って中をのぞいたが、やっぱり無い。
「えっ、えっ?」
はるかは慌てて体をぱたぱたと叩いた。
と思ったら急にしゃがみこみ、砂の上に顔を近づけてくるくると回りながら移動して行く。
その奇行を見下ろして、声をかけるのさえためらわれた秋良だった。
が、一応念のため、答えのわかりきった問いかけをした。
「探し物か?」
「あ、あの石が無いの! どっか落としたのかも……」
眼にうっすらと涙を浮かべて必死な表情で砂の上を探るはるかに、秋良はむしろ哀れみに近い視線を浴びせて近づいた。
はるかの後ろに回りこむと、首の後ろに下がっているそれをぐいっと引っ張った。
「馬鹿か、おまえは!」
「うぐっ!?」
一瞬喉が締まり、たまらず後ろに尻餅をついた。
喉に張り付いた、覚えのある革紐を引っ張って回すと、探していた親指の先くらいの石が現れた。
「あったぁ、よかった~」
はるかはたちまち表情を和らげ、その場にぺたんと座り込む。 その石を手のひらに載せて、存在を確かめるように見つめた。
透き通った深い瑠璃色の丸い石。
そのまわりに細い銀細工の帯が幾重か巻きついている。
その帯の一つに革紐を通して首に下げているのだが、妖魔と戦ううちに外套から飛び出して背中に回ってしまったのだろう。
「まったく、ただでさえ予定より遅れてんだ。 しょうもないことで時間取らせんなよ」
そう言うが早いか苛立ちもあらわに武器を収め、秋良は足早に歩き出した。
はるかは急いで石を元通りしまい、日除けの白い外套の頭巾をかぶり直し、口に砂が入らないよう布で覆うと、小走りに秋良の後を追った。
隣にはるかが並ぶと、秋良はいつのまにかはるかと同じ身支度を済ませてしまっていた。
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