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沙流(さる)砂漠は妖魔や盗賊も多く出没するため、よほどのことがない限りこの砂漠を渡ろうという者はいない。
旅人も、そのほとんどが海路を選ぶのだが、船で渡るには大金が必要になる。そこに目をつけて秋良が始めたのが運び屋だった。
運ぶ物は重さ一石(1Kg)の荷物からなんと人まで運搬する。
と言っても、人の場合はいわゆる用心棒というやつだ。 重たい荷物の場合は、馬車を借りて運んだこともあった。
砂漠の幅が一番狭くなっている沙里(さり)と琥珀(こはく)とを直線で結ぶ線。
秋良と出会ってから一年と少しの間、この三里の道のりを何度往復したのか、もう覚えていないほどだった。
今日は出掛けから妖魔に手間取っていて、かなり足止めを食っている。
余裕を持って三時頃に琥珀に着くように沙里を出たのだが、このままでは夕方ぎりぎりになってしまう。
いつもであれば真っ昼間に砂漠を横断することなどありえないのだが、 『急ぎの荷物で夕方まで』 という条件付の荷物のため、今日は無理を承知での強行軍だ。
夏はとっくに過ぎ、秋も半ばのこの時期だからこそ成し得ることだった。
それでも、高い位置に上り詰めた太陽はその光と熱で容赦なく二人を照らしつけている。
それに加えての妖魔との連戦で、すっかり二人は汗だくになっていた。
秋良(あきら)がため息をひとつついてはるかの方を見た。
「そいつ、妖魔の餌かなんかが入ってんじゃないよな」
「これ?」
はるかは懐から白い小箱を取り出した。 あの老人に頼まれた荷物だ。
「まさか。そんな物、何に使うのさ。 もし入ってたら、匂いとかすると思うけど……」
言って、くんくんと犬のように鼻を寄せてみるが、何の匂いもしなかった。
「ったく、あのじじい。 こんな小さいもんてめぇで運べんだろが」
秋良はぶつぶつと文句を言っている。
文句を言うなら、断れば良かったのに――箱を元どおり懐に収めながら、はるかは喉まで出掛かったその言葉を飲みこんだ。
言ったら、きっとこう言われるに違いない。
『ばか、金四枚だぜ? 四金もあったら半月以上遊んで暮らせるだろ?
まともに四金稼ぐには、一石の荷物だったら八回も運ばなきゃいけないんだぜ?』
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