第壱話 月夜の砂漠

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 三人とも似たり寄ったりの身なりで、右上腕部に共通して赤い蠍(さそり)の刺青がある。  その外見からは老けて見えるが、実際のところ二十代後半から三十代前半といったところだ。 「俺にも見せてくれよ、兄貴」  小太りのほうがちょっと甲高い声でせがむ。  小柄な男はうるさそうに望遠鏡を放った。大男がそれを受け止める前に、中肉中背の方がそれをかっさらう。 「あっ。俺が先だぞ、中兄」 「うるせぇな、年の順だ」 抗議する末弟を押さえつけながら、奪った望遠鏡をのぞきこむ。 「静かにしねぇか」  もみ合う二人を長男がいさめる。末弟は文句を言いながらしぶしぶ退いた。  次男は改めて望遠鏡をのぞいた。 男のほうはひょろっとしていかにも頼りなさげだ。  砂漠を二人きりで渡るからには妖魔を退けるだけの腕はあるのだろうが、この紅蠍(べにさそり)の三人の敵ではないだろう。  この砂漠に巣食う妖魔も、そこを渡る奴らもたかが知れていた。  大陸からこの島に来て数ヶ月たつが、短期間でずいぶん儲けさせてもらっている。 「今日はあれで決まりだな、兄貴」 「ああ。先回りだ、行くぞ」  その声を掻き消すように、強く吹いた風が白い砂を巻き上げた。
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