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「わぁっ」
風にはぎ取られそうになった頭巾を、少女は慌てて押さえようとした。
が、一瞬とどかず、茶色がかった金色の長い髪が砂風に巻き上げられる。
あどけなさの残る顔立ち。年は十六、七歳くらいだろう。
肌は砂の色に負けないほど白い。その肌に映える紫水晶のような大きな瞳は、砂が入らないよう細められている。
背中まである髪を何とかまとめて頭巾をかぶりなおしたものの、すでに髪の中には砂が入り込んでいた。
「う~、ざりざりする……」
「きょろきょろ頭上げてるからだろ」
先を歩いていた連れが振り返る。
少女とは対照的に、砂漠の陽に焼けた浅黒い肌。しかし、精悍と形容するには程遠い端正な顔立ち。
黒に近い褐色の髪。年は少女と同じか、少し年上のようにみえる。
男にしては高めの中性的な声。それもこの容姿にはしっくりきていた。
今度は頭巾をしっかりと押さえて、もう一度少女はあたりを見回した。
「だって、なんだか……」
「なによ」
連れのはっきりしない物言いに、そう言う口調にもとげが感じられる。
「……ううん、なんでもない」
さっきまで誰かに見られているような気がしたのだが、今はそれらしい気配はない。
きっと気のせいだったのだろう。そう考えて、少女は話題を変えた。
「大分、寒くなってきたね」
砂はまだ熱を保っているが、その上を渡る風は刻々と冷気を増している。
このまま歩けば、気温が下がりきる前には街に戻れるはずだ。
「どんなに気温が下がろうと、俺は懐が暖かいからな。はるか、お前は凍死しないようにせいぜい気をつけな」
喜々として言うその懐には仕事の報酬が入っているのだ。
はるかと呼ばれた少女は、あきれてため息をついた。
「秋良(あきら)ちゃんてば、いっつもお金お金なんだもん。そういうの『しゅせんど』って言うんだって。街の人が言ってたよ?」
「……お前、意味知ってて言ってんのか? それ」
「……? えーと、どういう意味?」
秋良は、えへへっと笑うはるかを半目で見つめ、大きくため息をついた。それから再び前を向いて歩き出した。
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