第壱話 月夜の砂漠

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「言いたい奴には言わせとけよ。所詮は成功者をひがむ負け犬の遠吠え。今のご時世、金がなければ待ってるのは野垂れ死にだぜ?」  その毒を吐く口さえ閉じていれば、道行く女性がすべて振り返るような美少年に見えるのだが……。  はるかは距離の開いた秋良の背中を小走りに追いかけた。 「そ、それはそうかもしれないけどさぁ……」 「だろ? だから、その石も売っちまえって」  秋良はからかうように笑って、隣に並んで歩くはるかの首の下あたりを人差し指でとん、と突いた。はるかはその位置をかばうように両手で押さえた。 「だっ、だめだよ。これは大事な物なんだから」 「大事大事ったって、その理由も覚えてないんじゃ宝の持ち腐れだろ」 「理由なんて覚えてなくってもねぇ……」  反論しようとしたはるかは途中で口をつぐんだ。秋良が真顔で一点を見つめている。しかし足をとめることはなく、今までと変わらぬ歩調で進んでゆく。  はるかは秋良が見つめるその先を追った。数十歩ほど先に、岩がいくつか固まって並んでいる。そのうちの一番大きな岩を、秋良はじっと見つめている。 「二人……いや、三人だ」 秋良は前を向いたまま、かすかに聞き取れる程度の声でつぶやいた。そのつぶやきが独り言ではなく自分に向けられたものだと、一瞬遅れてはるかは気付いた。 今までにも、砂漠を渡るときに何度かあったこのような場面。 鼓動がだんだん早まっていく。 三人……ということは、相手は妖魔ではなく……。 視線を送る秋良。   はるかは外套の中、腰に提げた細身刀の柄を右手で握り締めた。もう一方の手で、胸元にあるその石の硬さを確かめるようにきゅっと握る。 のどが渇いてひりひりする。 無理につばを飲み込んでから、緊張した面持ちのまま小さく頷いた。
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